「何を教えるか」を考えるーその2

前回の記事では「何を教えるか」のアウトラインをご紹介しました。詳しくはしたのリンクからご確認いただけます。

satoke1996.hatenablog.com

 

 今回は「何を教えるか」の後編として、前回の続きでもある国語の授業における「思考のプロセス」についてより深く見ていこうと思います。

 

ここで一言付け加えておきたいことがあります。それは、この記事を書いている理由にもなるのですが、僕は2021年度をもちまして塾講師という仕事から身を引くつもりです。そして、今まで培ったものを何かしらの形で残したいという思いからこのブログをはじめました。いつの日かこれが日の目を見ることが出来ることを願っています。

 

では、本題に入りましょう。「思考のプロセス」とはいったい何なのか。

 

授業で生徒に教える最も大切なことは「正解を導くための思考のプロセス」でした。 各問題ごとにアプローチをかけていくのではなく、国語における文章読解という大きなくくりにおいても、ほとんど全ての文章読解に通用する考え方を教えることが重要です。しかし、多くは目の前の問題を解説することに必死になり、さらっとやってハイ終了。さらにはその解説も解答ありきの逆算方式。これでは生徒の成績は伸びません。なぜならこの手法はつい先ほど解いた問題のみに当てはまるものであり、今後出てくるであろう未知の文章における設問には通用しないからです。もっと効果的な、効率的な、実用的な手法が必要です。しかもそれは誰が教えても遜色がないくらい完成されてなければ、クラスまたは講師によって授業の質にばらつきが出てしまいます。そこで僕が1年間授業なをしていく中で生み出したものが「思考のプロセス」です。

 

僕の授業(国語・英語・社会)の特徴として挙げられることは、常に頭を使い、常に考えることです。当たり前じゃないか、たいそうなことを言うと思ったらそんなもんか!と思うかもしれませんが、少々お待ちください。一般に”頭を使う”といっても範囲が広すぎるので、塾という限られた環境での意味を考えていきます。塾では毎日のように授業が行われています。塾の授業には”発問”というものがあります。これは、講師が質問して生徒が答えるという一連の流れを簡単に言い表したものなのですが、研修などでは「生徒が答えやすい質問をしてください。答えられたら褒めてあげてください。それがやる気につながります。」というように説明されます。答えやすい質問とはつまり、答えるべきものがすぐに分かる、もしくはテキストを見たら分かるもの、ついさっき学習した内容などです。なので、覚えていたら褒める。忘れていたらなんでだよーとなるわけです。いやいや、本当にそれでいいのでしょうか。これは本当の意味での”頭を使う”なのでしょうか。

 

僕の授業において、生徒に質問するときは多くの場合答えがない質問を投げかけます。なぜかというと、答えがすぐに分かってしまうのはつまらないという個人的な考えがあるのですが、それよりもしっかりと考えてほしいという願いの方が強いです。最近の授業では言葉の意味をしっかり考えるようにしているので、それを一緒に考えてみたり、様々な具体例を出しながら理解を深めていったりしています。こうすると生徒は単純なQ&Aではなくなり、頭にも残ります。これを根気強く続けていくと語彙力が上がっていき、難解な文章でも自力で文脈から意味を推察することができるようになります。このように、答えのない質問をすることも頭を使うという意味では重要なステップになると思います。集中力も鍛えることが出来るのでお勧めです。

 

しかしながら、発問だけをしていても話は前に進むことはありません。しっかりと授業の中身が伴っていない限り成績はおろか学力も上がることはありません。では、いったい何を教えているのか。それは先ほど書きました、「正解を導くための思考のプロセス」です。

 

僕の考えではすべての問題(ここでは国語の文章問題)には共通点があり、それを理解することでどんな文章にも的確にアプローチをかけられるものだと思っています。つまり、どんな問題が出題されているにせよ、考え方さえ理解していれば、それがたとえ難解な文章でも解くことが出来るということです。

 

問題の種類として挙げられるのは、空欄補充・下線部説明(記述を含む)・文章内容把握の3つだと思います。最後の文章内容把握問題に関して、これは総合的な読解力が必要になります。説明的文章の場合は大体が最後の段落にまとめられているのでそこを読めば答えが出てくる確率が高いのは事実ですが、そんな安直なことはやりたくありませんし、生徒にも教えたくはありません。ここでは空欄補充問題と下線部説明問題についてお話ししたいと思います。記述問題に関してはまた後日お話ししようかと思います。

 

まず空欄補充問題ですが、やることはいたって簡単です。それは、空欄の前後の文章を読み、その関係性を読み解くことです。簡単なことのように思えるかもしれませんが、これがなかなか難しいのです。なぜかというと、普段からそのようなことなんて考えていないからです。つまり、無意識のうちに文脈を理解、解釈して話を進めているか聞いているかのどちらかだからです。急に意識して読むことなんてできません。準備の期間が必要です。準備の期間というのは読解力を養う期間と同じと考えても差し支えはありません。読解力というもの文章の意味を理解し、段落ごと、または話題ごとに関係性を整理していくことに他ならないので、これを身に着けることが出来ればもうこっちのもんです。しかし、習得には時間がかかります。授業内で出来ることにも限りがあります。定着までに数か月かかってしまいます。しかし、諦めることなく、愚直に、忍耐強く続けていくうちに徐々に読み解けるようになります。それは意識しているからこそです。意識して読むこと以外に読解力を上げる方法はありません。授業では意識して読むことの大切さ、そのやり方、継続方法、定着方法などを伝えます。そうすることで僕の手の届かないところでもしっかりと読解力を向上するための読み方をしてくれるはずだということです。空欄補充の攻略こそ読解力の向上が必要不可欠なのです。

 

次に、下線部説明問題ですが、これに関しては独自の方法で回答を導きます。それは、よく読めばわかる!という、なんだかふんわりした、漠然とした解き方というよりはむしろシステマチックに解く方法と言えます。読解力の向上を目標としているのにシステマチックに解くことはどうなのかと思うかもしれませんが、これは講師の頭の中、つまりどのように答えを文章中から探しているのかという「思考のプロセス」を生徒に分かりやすく、かつ明確に伝えるために必要なことです。内容としては、下線部を見つけたら、まずは1文をチェックすること。下線部は多くの場合、文章の途中に引かれています。重要な語句をうまく避けて下線部だけに意識を集中させようという問題作成者の意図を感じます。なのでしっかり1文読んで、情報を漏れなく集めます。次に、その中に含まれている指示語の内容を確認すること。指示語があるということは前の内容を踏まえたうえで次の文章に進んでいるということです。そこを見落としてしまうと全体像が見えてきません。なので、下線部だけでなく、前の内容も視野に入れる必要があります。最後に、問題文や下線部を含む一文に同じ言葉が使われている部分を本文中から探すというものです。文章中や問題文中に隠れているので忘れないようにすることが問題です。解決策としては繰り返し問題を見返すということになりますが、これはまた別のお話。簡単に書くと次のようになります。

・1文チェック

・指示語の内容

・同じ言葉・フレーズ

これを使って文章を読み進めていくと意外と簡単に答えを見つけることが出来ます。

 

以上の2つをメインに教えています。しかし、これらは実は文章読解問題の3つ目のプロセスです。意外と忘れがちですが文章のテーマや内容、取り扱っている問題などを読者に分かりやすく、かつインパクトのある表現で伝えてくれている部分があります。それは「タイトル」です。これを見逃していると文章のテーマが掴みにくくなってしまいます。なので僕の授業では必ず初めにタイトルを確認します。次に問題の分析です。問題を良く分析することによって、本文を読む前に内容を大まかに把握できます。何について問われているのか。主語は何、誰なのか。気持ちなのか説明なのか、それとも理由なのか原因なのか。などといったことが分かれば初見の本文でもまるで映画の予告を見た後に映画を見るような感覚で読むことが出来ます。問題分析はこの後に読む文章のヒントとなる要素が盛りだくさんです。それを見逃さないようにしなければなりません。そのためにはどこが重要な要素なのかを的確に判断することが出来る目を養う必要がありますが、それはまた後程ご説明します。ここまで終わったら本文にいきましょう。そして先ほど書きました、「思考のプロセス」を併用していきます。まとめるとこんな感じになります。

1タイトル確認

2問題分析・・・何について問われているのかを確認する

3本文・・・1文チェック、指示語の内容、同じ言葉・フレーズの確認

このような一連の流れを習得してようやく問題を解く土台が完成します。

 

文章を無意識に読むという習慣から、問題を念頭に置き、意識して読むということを継続的に続けていくという習慣に移行することで初めて正答率を上げていく準備が整うと思います。過去の習慣を手放すことはだいぶ勇気がいることですが、その必要性を丁寧に説明することによって今までの解法がいかに非効率的であったかを認識してもらい、新しい解法を身に着けていく下地を整えていきます。「思考のプロセス」とはつまり問題を解くことにおいて必要不可欠な要素なのです。

 

僕の授業では無意識に読むことを悪と捉えています。常に意識し続けることによってそれが習慣となり、いずれは生徒個々人の脳内に潜在的に「思考のプロセス」が存在し、いつでも取り出せるようになることを目標としています。宿題や模試や入試は結局は一人でやるものです。そんな時に使い物にならない知識や知恵は邪魔なだけです。これさえあれば大丈夫と思えるような絶対的に信頼できるものを持ち合わせることが大切だと思います。

 

今まで紹介してきた「思考のプロセス」を頭の中に定着させるためには板書だけで終わらせてしまうことのないようにする工夫が必要です。一見簡単なように見えますが、これを文章読解中に意識し続けながら文章を読み、問題を解くことは意外と難しく、すぐにできるようにはなりません。次回は「どのように教えていくことが最も効果があるのか」ということに焦点を当ててみようと思います。